講演の要旨


■ 超微細相互作用における原子核の分極効果と有限サイズ効果 ■


近年多価イオンの分光測定技術が著しく発展している。 ここから生じる魅力的な展望の1つは、原子準位に対するLambシフトおよび超 微細構造分裂の高精度の決定である。 Lambシフトは、主にquantum electrodynamics(QED)に起因する効果であるが、 高Z原子においては原子核が点でなく有限の大きさをもつことに起因する 効果も重要になる。 後者の1つとして、原子の中で束縛電子が運動することに伴って原子核が仮想 的に分極する効果がありうる[1]。 この核分極効果は原子準位の超微細構造分裂にも同様に寄与する。 精密計算と精密測定の比較を通じてこの効果を詳しく議論できれば、原子核構 造に関する情報が得られる可能性がある。 我々は束縛状態QED(bound state QED)に基づいて、水素様イオンのLambシフト と超微細構造に対する核分極効果、つまり仮想核励起を含む原子と核の間の4 次の相互作用の理論的定式化を進めた。 核構造については電気および磁気多重極遷移確率を用いて記述した。

一方、最近低Zの多電子原子に対する超微細構造の高精度測定が進められている[2]。 この測定と対応する精密計算の比較から核構造、特に磁化構造が議論されている。 しかし多電子原子系に対する原子構造計算は電子相関効果のため非常に難しい。 我々はLi-like ^7Li,^9Be^+の1s^22s ^2Sと1s^22p ^2P状態に対する超微細構 造定数をMulticonfigurational Hartree-Fock法に基づいて計算した。 さらに相対論、有限の核質量と核体積(電荷および磁化構造)、QED補正を加え ることによって実験値との良い一致(50 ppm)が得られた。 その結果、^7Li,^9Beにおける核磁化構造の効果(Borh-Weisskoph効果)を定め ることができる。

[1] G. Plunien and G. Soff, Phys.Rev.A 51(1995)p.1119
[2] M. Wada et al., Hyperfine Interactions, 81(1993)p.161

山中信弘, 市村淳

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