2010-4-28(wed) 15:30-
Title: 格子ゲージ理論の強結合展開によるグラフェン物性の研究
Speaker: 荒木 康史 氏 (本郷)

Abs:
グラフェン(graphene)上をホップする電子系は、低エネルギー領域では(2+1)次
元の無質量Dirac粒子として記述できる。
その電子間のCoulomb相互作用の実効的な強さは、真空中においては量子電磁気
学(QED)の約300倍というきわめて大きな値で記述される。
この強結合性により、真空中のグラフェン上の電子は、エネルギー・スペクトル
にギャップを生じ絶縁体として振舞う可能性が示唆されている。
これは量子色力学(QCD)に代表される強結合ゲージ理論における、カイラル対称
性の自発的破れに伴うフェルミオンの動的質量生成と同様のメカニズムによって
記述される。
このセミナーでは、グラフェンの低エネルギー有効理論を格子正則化し、結合定
数の逆数による強結合展開の手法を適用することにより、フェルミオンが獲得す
る動的質量ギャップの振舞いについて説明する。
さらに、集団励起の分散関係の式を導出し、グラフェンにおけるカイラル対称性
の破れに伴う南部--Goldstoneモードの性質についても議論する。

2010-5-26(wed) 15:30-
Title: 格子ゲージ理論に基づくチャーモニューム-核子相互作用 の研究
Speaker: 河内 太一 氏 (本郷)

Abs:
チャーモニューム (重い中間子)-核子系の特徴は、互いの構成要素として同 種フレーバーの
クォークを含まないことにより、多重グルーオン交換による相互作用、所謂カラーファンデル
ワールス力が支配的となることである。そのため、原子核内においてチャーモニュームはパウリ
排他律に由来される短距離斥力効果を全く感じず、さらに、核子とのカラー・ファンデル
ワールス力が常に引力であることからチャーモニウムが原子核に束縛される可能性が高い。
しかしながら、実際に束縛させるためにどのくらい大きな核子数の原子核が必要かは、
核子-チャーモニウム間の二体相互作用の詳細に強く依っている。本研究では、相対論的
重クォーク作用を用いた定式化と、ハドロン間の Bethe-Salpeter 振幅からポテンシャルを
導出する定式化を用いて格子 QCD 数値解析を行った。このセミナーでは、クォークの真空偏極を
無視したクエンチ近似で、且つクォーク質量がパイオン質量に換算して 0.5-0.8 GeV の
比較的重いクォーク質量を用いた予備計算の結果と研究の詳細について発表する。

2010-6-9(wed) 15:30-
Title: カラー超伝導における非アーベルボーテックスのフェルミオン構造
Speaker: 安井 繁宏 氏 (KEK)

Abs:
CFL超伝導においてSU(2)xU(1)対称性をもつ非アーベルボーテックスが
安定に存在することが知られている。この非アーベルボーテックスについて、
Bogoliubov-de Gennes方程式から出発してフェルミオン構造を議論する。
SU(2)のシングレットおよびトリプレット表現にゼロモードのフェルミオンが
存在することを議論して、これらのフェルミオンについてボーテックス上の
1+1次元の有効理論を構築する。

2010-6-23(wed) 15:30-
Title: 量子渦および量子乱流の世界
Speaker: 小林 未知数 氏 (駒場相関)

Abs:
超流動ヘリウムや原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体などの
量子流体ではゲージ対称性の破れに対応した位相欠陥が存在し、
その位相欠陥は量子化された循環を持つ量子渦となる。
量子渦が複雑に絡み合い、乱流となったものを量子乱流と呼び、
近年、通常の粘性流体との対応という視点において大きな注目を
浴びている。同定が困難な粘性流体の渦と比べると、量子渦は
位相欠陥としてその存在が明確であり、量子乱流は渦と乱流の関係を
明らかにするという視点でブレイクスルーを生むかもしれないと
期待されている。
セミナーでは一連の量子渦および量子乱流を巡る研究の流れと、
近年我々が行った幾つかの数値シミュレーションなどの結果を
紹介する。

2010-10-22(Fri) 16:00-
Title: Confining gauge fields 
Speaker: F. Lenz 氏 (Emeritus Professor, University of Erlangen-N¨urnberg) 

Abs:
By superposition of regular gauge instantons or merons, ensembles
of gauge fields are constructed which describe the confining
phase of SU(2) Yang-Mills theory. Various properties of
the Wilson loops, the gluon condensate and the topological susceptibility
are found to be in qualitative agreement with phenomenology
or results of lattice calculations. Limitations in the
application to the glueball spectrum and small size Wilson loops
are discussed.

2010-12-3(fri) 16:00-
Title: Chiral Magnetic Effect and the QCD Phase Transitions
Speaker: 福嶋 健二 氏(慶応大)

Abs:
QCD相転移には少なくともふたつの秩序変数があり、
格子QCDシミュレーションの結果等から、有限温度QCD
の相転移の様子はある程度理解されてきた。しかし
トポロジー的な励起の微視的な中身と、相転移との関係
は、まだ完全に理解されたわけではない。最近、非常に
強い外部磁場を印加した状況では、QCD物質中の
トポロジー的な性質が比較的容易に観測にかかるのでは
ないか、という可能性が指摘されている。いわゆる
「カイラル磁気効果」の発現であり、ここでは量子異常が
重要な役割を果たす。本講演ではQCD相転移と
カイラル磁気効果について、最近の発展を含めて詳しく
解説する。